施主にとってこの家は、思いがけないマイホームだという。「地元に戻ってくることになったら、祖父が新築に必要な契約をすべて済ませてくれていたんです」。具体的なイメージすらないところから、理想の暮らしを少しずつ絵にしていった。建具は引き戸、バリアフリーを徹底し、車椅子でもスムーズに動けるよう計算された廊下や水周りの寸法。2階建てだが2階部分は子供部屋に特化し、大人の生活に必要な機能は1階に集約している。これらはすべて「いつか父と母もこの家に呼んで、3世代で暮らしたい」という施主の想いを反映したものだ。 大きな一枚板やオーダーのシューズクロークをはじめ、さりげなくも惜しみなく使われた自然素材のやわらかさが心地いい。高気密・高断熱のスーパーウォール工法を採用し、天井ダクトを通じた計画換気システムで室内の空気を常にさわやかに保っているのも、その心地よさの一因だ。その性能は、団地暮らしで気管が弱かった施主が「症状まで改善した」と驚いたほど。 家族の声がすぐに通じ合うよう、2階の子供部屋にはドアをつけず、壁で視線を遮る工夫も。吹き抜けのような開放感とともに、親子の仲のよさも伝わる設計だ。